第7章 日常.2
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『ふぅ…ちょっと寒くなってきたな…ッ!?』
身体を拭き終え晒を巻き、寝巻に着替えた瞬間風呂場の入り口に人の気配を感じ鉄扇を構えた。すると、風呂場に善法寺伊作が入ってきた。
「やぁ」
『あ…善法寺伊作さん。こんばんわ』
「ちょうどよかった。君にこれを上げようと思っていてね。」
と、善法寺はお盆に乗せた湯呑を見せた。
それは湯気の立つほんのり甘い匂いのするものだった。
『これは?』
「生姜湯だよ、身体が温まるからね。君ずっと冷水で身体を拭いているだろ?風邪をひかないかと心配だったんだ。」
『はぁ…って!まさか善法寺さんがいつもお風呂覗いて…』
「違うよ!監視!!さすがに裸とかは見てないよ!!それより、生姜湯、飲んでみて」
差し出された湯吞みからは確かにショウガの匂いが漂っていたが、彼はすぐには手が出せなかった。毒は入ってないよと笑っている善法寺に彼は一応恐る恐る手に取った。
ほわほわと湯気の立つ生姜湯にそっと口をつけてみると、甘さの中にピリッと辛みがあるが・・・とても温かくて美味しい・・・と、彼は思わず笑みがこぼれた。
「どうだい?身体が温まるだろ?」
『あ、はい。ありがとうございます。』
すっごい屈託のない笑顔に彼も思わず視線を逸らしてお礼を言う。残った生姜湯をゆっくり飲んでいると、善法寺が彼の頭を撫でた。
『えっ…⁉なんですか?』
「いや、まだ年端もいかない女の子なのに…なんでこんな…」
『…仕方ないですよ、オレ…あたしの生まれた家がそうだったってだけです。同情しないでくださいよ』
と言って、頭の上にある善法寺の手を払った。
そして、残った生姜湯をグビっと飲み干して善法寺が持っているお盆の上に戻した。