第2章 雨と雲
てっきり私は病院へ向かうものだと思っていたが、先生の車で到着した先は警察署だった。
なんだ、軽傷だったのか。
事故にあったと言っていたから
事情聴取でも受けているのだろうか。
「ちょっと待ってろな」
警察署の中へ入ると
先生にそう言われてロビーで待つ。
事情聴取であれば、何故私がここへ連れて来られたのか…
親が迎えに来られなかったのか?
先生の深妙な顔つきが何故か引っかかっている。
「白雲さんのご家族の方ですね…
ご案内します、こちらです」
先生と受付の女性に着いて歩くと
受付の女性が立ち止まった部屋には
【霊安室】とプレートがかかっていた。
…霊安室?
ここにお兄ちゃんがいるってこと?
どうゆうこと…?
思考が追いつかないまま
私は立ち尽くしていた。
受付の女性が丁寧にお辞儀をして戻っていくのが視界の端に映る。
先生がお礼を述べていた。
間違えているわけではなさそうだ。
「白雲…」
先生が後ろから背中を押して
中へ促そうとする。
何故だろう、足が進まない。
身体が中に入るのを拒否しているようだった。
震える手でドアノブを握り捻るが
そこから開けることができなかった。
けっきょく先生がドアを開けてくれた。
ドアを開けると父と母がいて
二人の目の前には頭部分に白い布を乗せられた人が横たわっている。
血塗れで黒ずんでいるがお兄ちゃんのヒーロー服に似ている。
母が泣き崩れそうなのを父が泣きながら支えていた。
私はまだ状況が理解できていない。
「霞…」
父が私に気付き、名前を呼んだ。
母も気が付いたようで
母が私の方へきて肩を抱き寄せた。
父は先生にお礼を言っている。
「失礼します…」と先生が立ち去るのが見え
ああ…学校に荷物を置いてきちゃったなぁ…などと考えていた。
父と母はまだ泣いている。
私は未だに理解できないまま立ち尽くすしかなかった。
「…お兄ちゃん?」
ひと言声をかけてみたが返事はなかった。
父と母の泣き声だけが
暗く冷たい部屋に響いていた。