第26章 強く想う
「霞さーん!」
「……馬合さん、お待たせしました。」
馬合さんが手配してくれたタクシーに乗り、お店へと向かうまでの時間で少し持ち直したものの、まだ楽しくワインを飲む気分にはなれない。
「……霞さん。
お酒飲む前に少し歩きませんか?」
「え?」
「疲れてなければ、是非。」
馬合さんに連れられて来たのは、お店から5分ほど歩いた所の川に沿った遊歩道。
川の水面にビルや街灯の明かりがキラキラと反射している。
「ここ、春は桜が綺麗なんです。
夜にはライトアップされて、屋台なんかも並ぶんですよ。」
「へぇ、夜桜かぁ……。
いいですね、ビールを片手に?」
「それ最高ですよね!
でも僕はこの季節のライトアップされていない、この道が好きでして。
静かで、程よく暗くて、水面が綺麗でしょう?
たまに一人で散歩したりするんです。」
馬合さんは川沿いの柵に手をかけた。
確かに静かで少し肌寒い季節だが風が心地よく、澄んだ空気が秋の終わりを感じさせる。
「少し元気が無さそうに見えたので、僕のお散歩に付き合ってもらっちゃいました。」
アハハ!と馬合さんが笑う。
気を遣わせてしまったようだ……。
相変わらず顔に出るんだな、私。
申し訳なく思いつつも、馬合さんの気遣いに感謝して私も笑顔を返す。
「馬合さん、ありがとう。
なんだか凄く心が安らぎました!」
「僕も緊張が和らいだので良かった!
お店、戻りましょうか!
お腹空いたでしょう!?」
「はい!たくさん食べれます!」
アハハ!と二人で笑いながら
来た道をゆっくりと歩いて戻った。