第20章 手探り
しばらくして店のママが一人の従業員さんを連れてきた。
がたいの良い身体だが髪の毛は二つ縛りにしていて
爪も綺麗、声は野太いが仕草は完全に女の子だ。
「ノリちゃんです。よろしくね。」
乾杯しましょう!と声をかけ、
ノリちゃんがお酒を作ってくれる。
「ノリちゃん、なんや元気なさそうに見えるで?
なんかあったんか?」
さすが女性に優しいファットさん。
細かいところに気が付くなぁ。
ノリちゃんの目元は赤くなっていて
ついさっきまで泣いていたようだった。
ノリちゃんはハッとして笑顔を作って
何でもないですよ~と顔を逸らした。
「こら~、ファット。
女性には人知れず涙を流したい時だってあるのよ!
ねえ、ノリちゃん?」
私はすかさずフォローを入れる。
ファットはちょっと納得がいかないという顔で私を見てきた。
「クラウディアにもそんな時あんのかいな。」
私をなんだと思っているんだ。
ジト目でファットを睨み小突く。
「クラウディア!?
ああ、気付かなかった……。
クラウディアって、あの……会見みたんだけど……。」
ノリちゃんが私に反応した。
敵連合の事を探っているのがバレただろうか…。
ファットは隣でワタワタしている。
自分が名前を出したせいだと焦っているのだろう。
「ああ、あの会見見られてましたか。
お恥ずかしい限りです~!」
「……あの、家族を亡くされた……とか。
私もついさっき、家族よりも大事な友人が死んだと聞かされて……。
それで、ちょっと泣いてしまって……。」
ノリちゃんは我慢していたのであろう、
ポロポロと涙をこぼし始めた。
私はハンカチを取り出し、ノリちゃんへ渡した。