第8章 励め青春
俺が廊下を歩き出すと、
霞も慌てて付いてくる。
先ほどマッスルレディから受け取った紙を
ポケットに詰め込んでいた。
「・・・・電話、しなくていいのか?」
「え?ああ、これ?
体育祭終わってから落ち着いたらするよ。」
聞きたくもないのについ質問してしまう。
霞に恋人がいようが、仲いい男がいようが
俺に口を出す権利はないのだから。
兄貴分として、相手を見極める!などというほど
お節介な性格でもない。
そもそも恋愛自体が不合理の極みだと思う。
恋人と会うために時間を作って自分の時間を削るなんて俺にはとても考えられない。
と、この前マイクに言ってみたところ
「本当に好きなやつの為ならノープロブレムだろ。
お前だって霞に会いにわざわざ時間作って福岡まで行ったじゃねえかよ!」
と言われた。
マイクは何かに気付いているようにニヤニヤとしていた。
むかついたから足を踏んでやった。
霞のことを妹として見たことはない。
これは昔からだ。
高校時代、霞は俺の事が好きだと伝えてくれた。
俺はそれに答えなかった。
霞もわかってると言ってくれた。
当時は自分に余裕も無かったし、
霞も自分の目標に向かって進み始めた。
あれで正解だったのだ。
お互い今はやりたい事をやって
ヒーローとしても安定してきている。
だからといって今更、やっぱり好きだ、などと・・言えない。
霞はきっともう前に進んでいる。
「・・くん!・・消太くん!!!」
ハッと我に返る。
考え事に夢中になってしまっていた。
「大丈夫?まだ痛む?雲で運ぼうか?」
怪我のせいでボーっとしていると
思われていたらしい。
心配そうに顔を覗き込んでくる。
眉毛が垂れていて、まるで子犬のようだ。
俺は猫派だが、こんな子犬なら悪くない。
「ああ、重症だな」
つい、自分の心の声が漏れるが
霞は怪我のことだと思って慌てている。
モヤモヤしていた気分はどこへやら。
霞の言動で一喜一憂している自分がいる。
結局、廊下で強制的に雲に乗せられ
教師用控え室に連行された。