第2章 case*2 三日月 宗近 へし切り長谷部
四季の恵が惜しみなく彩られる山奥に佇む小さな神社。
春になれば薄桃色が咲き誇り、夏には青々と茂る木々を朝露が輝かせる。
秋になれば紅に黄色に橙色が野山に錦を飾る…冬は枯れ枝に雪が降りしきり白銀の花が咲く。
生まれた時から共にある景色。
大役を努めるために、長年過ごした神社を離れることになった。
そんな巫女さんの物語。
が審神者として招かれ、戸惑う事の多かった生活と特殊なお勤めにもすっかり馴染んでいた。
初めは寂しかった本丸も時間の経過と共に賑やかになり、鍛刀した刀剣達との関係も良好で充実した時間を過ごしていた。
縁側に腰をかければ、神社の景色と遜色のない四季を小さな庭園から感じられる。
『春は桜…』
はらはらと舞う花びらがの手元にも届く。
「主、お茶にしませんか?」
彼の名前は長谷部と言う。
右も左も分からない審神者の世話役として一番付き合いの長い刀剣となった。
『長谷部さん、いただきます』
縁側に煎茶と小さな桜餅が乗るお盆が置かれる。
『長谷部さんもいかがですか?』
「ありがとうございます、主」
二人は縁側から桜を眺める。
が本丸へ足を踏み入れたのも桜の咲き誇る春だった。
「桜を見ると…主が本丸へいらした時を思い出します」
『私もですよ、薬医門が開かれたときに桜の花びらを纏う長谷部さんが迎えてくれました』
とても穏やかな優しい時間を過ごせる今を大切にする。
幾度となく任務に傷つく刀剣達に心を痛めてきた、そして…愛した人は。
『美味しいですね、桜餅』
「はい、とても」
『穏やかな時間ですね』
「そうですね、主」
は随分と鍛刀を行わずにいた。
待てど暮せどあの人は戻らない。