第4章 白い道【2】
流石に冬島が近づいているとなると朝は冷える。
いつもより早く台所の電気が付いているのを見つけ、ドアを開けた。
小さな体をさらに縮めて、島で買ったコートを着込んだカラがマグカップを両手で包み込んで座っているのが見えた。
「今日はまた随分と早いな。」
『寒くて目が覚めて、眠れなくなっちゃった。
ジンジャーティーあるけど、飲む?』
その手の中にある茶色い液体はそれか。
「いや、コーヒーあるか?」
『えぇ。待ってて。』
徹夜明けの朝はコーヒーに限る。
カラは面倒だろうが嫌な顔一つせずに用意してくれる。
「悪いな。」
『ううん。
…いつも読んでるその本達って、医学書?』
「あぁ。…読むか?」
俺は適当に本の山の中から一冊抜き取り、カラに手渡す。
カラはパラパラとその本を捲ると、難しそうな顔をした後、少し残念そうな顔をして本を閉じた。
『…私には少し難しいみたい。』
俺はカラの手から本を受け取り、表紙のタイトルを確認する。
"化学的性質から考察した理想代謝機能及び人体の現在の実情"
これは、、、確かに素人が読むには難しすぎだ。
実際理想ばかり語って大して役に立たなかったしな。
それにしても、、、カラの航海術には何度も驚かされた。
海図も簡単なものなら描けるという。
一体どうやって得た知識なのだろうか。
鷹の目は七武海は、そんなにも遠いのか。
「海の知識はどうやって学んだ。鷹の目が教えたのか。」
『いいえ。おじさまとは実践がメイン。基礎的な知識はおじさまの持ち帰る本で学んで、それを使って実際におじさまとの航海でやってみるの。そこで初めておじさまが指導してくれる。
その繰り返しだった。』
海での実践。
それも、グランドラインの、、、
失敗したら洒落にならねぇこともあるんじゃねぇのか?
その頃はカラもまだ14かそこらだっただろうに、
「手厳しいな。」
『確かに、今思えばそうね。でもあの頃はそれが楽しかった。』
隣に座るカラの顔を盗み見た。
「っ」
その顔はそれはそれは穏やかなもので、目を見張った。
いつもの大人びた強い瞳は細められて懐かしむように、慈しむようにカップの中を見つめていた。