第4章 白い道【2】
ローは薬が効くまでの5分間、私の部屋に居てくれた。
医療大国へ行く、ということを聞いた私の不安を溶かすように、ベポは風呂が嫌いだとか、そんな他愛のない話をしてくれた。
「もういいだろ。寝てみろ。」
『…うん。』
私はそっとベッドに横たわる。
『大丈夫みたい。』
「そうか。明日は早い。もう寝ろ。」
ローは痛まないことを確認すると、さっさと部屋を出て行こうとした。
『待って!』
「なんだ。」
『あの、これ、今日買ったんだけど、、、』
私がそう言って差し出したのはラベンダーの香り袋。
昔、痛くて眠れなかった時、おじさまがくれたことがある。
痛みが治るわけでは無かったけど、この香りがするとリラックスできた。
今も大好きな香りで、今も持ってる。
「…ラベンダーか。」
『うん。
ローは徹夜してることが多いから、、、これで少しでもリラックスできたらなって思って、、
あ!匂い苦手だったり要らなかったら捨てていいから!』
昨日は私の病を調べて徹夜してくれていたロー。
そんなことを知って、徹夜しないで、なんて言えないけれど、少しでも、ほんの気持ちだけでも、ローが楽になれたら、、、なんて願ってしまった。
余計なお世話なのかもしれないのに。
私は恥ずかしくなって、髪の影に顔を隠した。
「…いや、嫌いじゃねぇ。礼を言う。」
ローはそう言って、香り袋を手に取って部屋を出て行った。
受け取ってくれた、、、
それがなんだか凄く嬉しくて、笑みが溢れた。
徹夜していたことにも気がついていたのか。
昨日はカラの診察で得た情報から治療プランを立てているとあっという間に朝だった。
ショートスリーパーである自覚はあるし、自分の限界は知っているつもりだが、気を遣わせてしまっただろうか。
…ラベンダーの香り袋。
その香りを近くで感じて、気がついた。
いつも船では束ねている髪を、外に出る時はほどいて街へ繰り出す時、俺の隣を歩くカラから香る花の匂い。
あの香りだった。
微かに香りながらも、芯があって、それでいて繊細。
普段は香水など好まないが、何故だかこの香り袋は手元に置いて置きたいと、そう感じた。
俺は紫色のそれにもう一度目を向け、今日は早く寝るか、と部屋へ戻った。