第1章 白の呪縛
ー11年前ー
最近の唯一の楽しみだった赤髪との決闘
丁度近くにいるという噂を聞きつけ、北の海のある島に滞在していた
七武海となってから海軍とのつまらない諍いがなくなり、赤髪の有益な情報も入るようになって、俺は上機嫌だった
バサッ
羽音のような音と共に、不気味で不快な気配が頭上に現れた
血の匂いを纏い、無駄に大きく派手なコートに身を包んだ男は俺の前に降り立った
「鷹の目ってのはアンタか。七武海になったとかいう。」
「…」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ…
イトイトの実の能力者でかなりの額がその首には掛かっている
その時の俺はそれ程のことしか知らなかった
認識としては偶然出会った海賊…その程度
「何か用か。」
剣士でもない、この男と戦う理由はない
これから赤髪の元へ向かうというのに、この男と一戦交えるのは御免だ
決闘とは、互いに万全の状態でこそ滾るのだ
「んや、上から見かけただけだ。七武海になった男の顔、拝んでおいても損はねぇだろ?」
ニヤニヤとした気持ちの悪い笑みを浮かべ、そこから伸びた長い舌は頬に付着していた血を舐め上げた
「お前とはまたどこかで会うかもな。フフフフフ」
それだけ言って、あいつはさっさと飛んで行った
よく分からない男だと、そう感じた
歩みを進めると、血の匂いが強くなっていった
先程会ったドフラミンゴが殺めたであろう、その人間の匂いだろうか
海賊同士の小競り合いか
ただの略奪か
実に下らない
脇の路地に目を遣ると、女が血塗れで倒れていた
服装から見ても体格からしても、海賊のような無法者とは思えない女だった
僅かに息はあったが、この失血ではもう助からないのは明白だった
恐らくこの女はもう数分もせずに死ぬのだろう
ジャリ…
「っ、…あ、の、、、」
俺の靴音に反応したのか…女は虚な目で俺を見上げた
大きく切り裂かれた背中の五本の切傷からは血が流れ続けている
「おねが、い、この、、、こ、、たす、け、て、、、」
そこで俺は、やっと女が子供を抱いていることに気がついた