第3章 白い道
ーパチン!
乾いた音が部屋に響き渡った。
ジンと痛む手の甲と怯えと戸惑いが窺えるカラの様子から、自分の手が振り払われたのであろうことを察する。
先程まで、カラにまともな医者として接していたつもりだが、それではまだ、俺は医者としての信用を得るまでには至らなかったのだろう。
カラに目を向けると、小さく震えているのが分かる。
それを見て、幼い頃の自分の姿と重なった。
医者や珀鉛病を知らない他人を前にする時の恐怖。
これは、一度体に染みついたらなかなか取れない。
仕方のないことだ。
今まで受けてきたであろう世間からの罵倒を考えると、この反応は当然の結果と思える。
別に診るだけならカラが拒絶しようがなにをしようが力で押さえつけてから診れば済む話。
だが、この時の俺はなぜか、カラの精神面まで救い上げたいと、なぜかそう考えた。
この時の俺が何故カラの精神面を考慮していたのか、
この時の俺は、ガキの頃の自分が欲しかった言葉をカラにやりたいと思ったからだと理解した。
「よく聞け。
俺は医者だ。一度診ると決めた患者は必ず最期まで診る。例え俺の力量では無理だったとしても、一度診ると決めた患者は絶対に見捨てない。何があってもだ。」
これは俺の医者としての誓いだ。
ガキの頃にあったあの理不尽。
他人にあんな思いをさせたくないとか、そんな崇高なものではないが、単純に噂に振り回され、事実を見ようとしないクソ医者共と同じにはなりたくなかった。
「確かに、剣士としてのお前はまだ信用してないが、患者としてのお前を疑うつもりはない。
患者を信じられない医者は医者じゃねぇ。
だから、、、俺自身を信じろとは言わねぇが、、お前も、医者としての俺は信じろ。
お前の見てきた医者達のように、お前を裏切る事は絶対にしない。」
剣士としてのカラ、か。
正直、こんな状態のカラを見て今更裏切るとは思ってはいないが、…悔しいことにカラは俺より強い。
なによりも今の自分が不甲斐ないのが原因だが、今はまだ、クルー達のことを守るため、心臓は返すわけにはいかない。
だが、医者としての覚悟は本物だ。
だから、お前も俺に預けろ。