第3章 白い道
黙ってガタガタと震える私を見て、幻滅してしまっただろうか。
私は自分の取った行動があまりに失礼で、頭の中がパニックだった。
俯いて、髪の影で隠している私の顔を、ローはしゃがんで覗き込み、目を合わせてきた。
「よく聞け。
俺は医者だ。一度診ると決めた患者は必ず最期まで診る。例え俺の力量では無理だったとしても、一度診ると決めた患者は絶対に見捨てない。何があってもだ。」
ローは力強く、私を見つめたまま続ける。
「確かに、剣士としてのお前はまだ信用してないが、患者としてのお前を疑うつもりはない。
患者を信じられない医者は医者じゃねぇ。
だから、、俺自身を信じろとは言わねぇが、、お前も、医者としての俺は信じろ。
お前の見てきた医者達のように、お前を裏切る事は絶対にしない。」
ただの言葉。
誰だって言葉で嘘をつく。
それでも、ローの言葉は私の胸にストンと落ちてきた。
「診るぞ。」
何も言わない私を他所に、再びそう言うと、ローは私のTシャツの裾に手を掛けた。
ヒヤリとした空気が肌を掠め、ぴくりと身動いだが、ローの手を振り払うことはしなかった。
ローは裾を捲ると、胸元にブランケットを掛けてくれた。
ローの手がアザをなぞると、やっぱりまだびくりと体が跳ねるけど、ローは何も言わずにアザを診ていた。
ーと、
「Roomーーーーースキャン」
私とローの身体を覆うくらいの膜が張られた。
ローは私の身体をじっと見つめていた。
ローがなにかの能力を使ったのは分かるが、私には皆目検討がつかない。
しばらく微動だにしなかったローだったが、
「チッ」
と、盛大な舌打ちをかまし、ノートにガリガリと何かを書きつけていた。
「カラ、2つ聞きたいことがある。」
『…なに?』
「デカイ五本の傷じゃなくて、アザの上にある傷痕はなんだ。」
『昔、何もかもが嫌になって、何度か自分で白いアザを斬りつけたことがある。多分、その傷。』
「…そうか。2つ目だ。お前、心肺機能に異常を感じたことはあるか。」
『いや、ないけど、、、』
「…わかった。今日はこれで終わりだ。少しでも異常があればすぐに言え。」
『…うん。ありがとう、ロー』
「あぁ。」
私はそのまま、ローの部屋を後にした。