第1章 白の呪縛
早く…早くここを立ち去らないと…
1秒でも早く…1センチでも遠くへ…離れなければ…
迷いはなかった
雷雨は酷かったが、その日のうちに私は静かに城を出た
悲しいだとか悔しいだとか、そんな感情はまだ追いつかなくて、焦りだけが私を焚き付け体を突き動かした
この島では珍しい雨が服を濡らし肌に張り付く
空が代わりに泣いているようだった
「何処へ行く。」
『…おじ、さま……』
気配も、音も、痕跡も
何もかも消してきたはずなのに、海岸には雨に濡れたおじさまが立っていた
私が今日出ていくのをわかっていたように、すでにそこで待ち構えていた
…私は荒れた海を見ながら、淡々と言葉を並べた
『何処か、遠くへ。おじさまに感染る前に。』
「…」
『…私には、おじさましかいないから…
私のせいで病ませたくない…』
「…」
『おじさまには…生きて欲しい…』
私のせいで…こんな病なんかのせいで…貴方の稀有な力を潰すわけにはいかない…
貴方の誇りや矜持を守りたい
言葉にするのはとても難しく、彼の目を見るのはとてもじゃないができなかった
と、土を踏み締める音がして、反射的に顔を上げる
そこには私を真っ直ぐに見つめてこちらに足を進めるおじさまがいた
『っ!近づかないで!!!』
「…」
『来ないで…おじさままで感染しちゃう……』
「…珀鉛病は感染らない。」
『そんなわけない…!
この病で国がひとつ滅んでる…』
おじさまから逃げるように、彼が一歩歩みを進めると私は後ろに一歩下がる
迷いのないおじさまの足取りとは裏腹に、私の足はもつれそうになりながら、石につんのめりながらしか動かない
どうして…行かせてくれない…?
私はただおじさまに感染させたくないだけなのに…
「政府によってねじ曲げられた事実だ。フレバンスは人が、いや、政府が滅ぼした国だ。」
『…え、』
「そもそも…感染する病ならば今までの生活で既に俺は病んでいる。」
『でも…まだ感染してないだけかもしれない…!
それなら尚更…「くどい」
『っ!』
「俺の許可なく島を出ることもその命を投げ打つことも許さん。
わかったら戻れ。」
『…』
「戻れ。」
『……は、い…』