第8章 白兵戦
初めはピリピリとした殺気だけだったが、目の前の男がベポの命を使って俺を弄ぶたび、隣のカラがどんどんと冷静さを失っていくのがわかる。
目の前のアイツは馬鹿なのだろう。
もはやピリピリどころではない、肌を刺すような怒りを体現しているカラを全くと言っていいほど見ていない。
その怒気には痛みすら感じる。
…このまま暴れられたら色々な意味で冗談では済まない。
『フゥーッ、フゥーッ、、、』
荒い息を吐き、なんとか自分を抑えているカラ。
それも限界が近そうだが…
顔には青筋が浮かび、瞳孔は開ききって、どことなく刀の様子もおかしい。
その姿、宛ら獣だ。
と、右足を踏みしめ、カラは男に向けて飛びかかろうとした。
「菜々美、待て。
…落ち着け。」
ピタリ、と。
カラの動きが止まり、こちらを見ている。
「Roomーシャンブルス」
「なっ!」
『っ!』
別に、コイツも後から回収して良かったんだが。
手元の起爆装置とやらを一瞥してカラの様子を伺う。
いつも通りとまではいかねぇが、多少は冷静さを取り戻したらしい。
「ベポのことは任せろ。策がある。
お前は今から船へ行き、ペンギンたちと船を守れ。」
『え、』
「シャンブルス!」
『っ!?』
まともな返事を聞く前にカラをカジノの外へ放りだす。
この場でカラの力を借りられないのは少し惜しいが、船の方が気になる。
数だけは多い。
3人揃っている状態でベポを上手く連れ去れたのなら、2人が無事かもわからねぇ。
カラなら、いくら数が多くともこんな雑魚どもに遅れを取るはずがない。
「女だけ逃がしてどうする?」
「…」
逃がす?
馬鹿言ってんじゃねぇよ。
アイツらはお前の部下どもを狩りに行ったんだよ。
俺は脳内でそう答え、何も言わずに攻撃に踏み込んだ。