第8章 白兵戦
…今までに感じたことがないほど、自分が怒りという感情に呑まれているのがわかる。
小夜の表情が目に入らないほど、私はただただ目の前の大男を斬り捨てたくて、ベポを早くあの檻から出したくて、小夜を握る手に力が籠る。
『フゥーッ、、、フゥーッ、、、、、』
今までここまで感情が昂ったことがあっただろうか。
自分が自分でないような、そんな感覚に陥る。
しかし、それでいてどこか冷静にその怒りに染まった自分を遠くで眺めている自分がいる。
ここであの男をやり、辺りの雑魚どもを蹴散らすのは容易い。
でも、その刹那、ベポの起爆スイッチを押されたら?
そもそもベポの首輪ををどうやって外す?
そう思うと結局何もできない。
「ッククク、おら、早く武器捨ててそこの錠自分で付けろよ。
そしたらこの熊解放してやる。」
ローの足元に、恐らく海楼石で出来たであろう手錠を投げ捨て、ベポの首元に刀を触れさせながら気持ちの悪い笑みを浮かべる男。
一刻も早くその薄汚い笑顔を早く切り裂いてしまいたい。
「妙な真似してみろ。
その瞬間コイツの首は体とおさらばだ。」
ギリギリと自分の歯が嫌な音を立てる。
あぁ、だめだ。
我慢の限界がもう直ぐそこまできてる。
目の前の男に対する怒りが最高潮だ。
ベポをあんな目に合わせるだけでなく、ローのクルーに対する気持ちまで弄んで笑っている。
ローのことをバカにされている。
それに気がついた瞬間、男に斬りかかろうと強く右足を踏みしめた。
「カラ、待て。
…落ち着け。」