第8章 白兵戦
自室に帰って息をつく。
嫌な汗を吸ってしまったTシャツを脱ぎ捨ててパーカーを羽織る。
カラが口直しに、と入れてくれた冷たいハーブティーの香りが俺の気分を和らげる。
ジメジメとした暑さと気色の悪い視線、そして不味い酒に塩辛すぎるツマミ。
医者としてそれなりに衛生面に気を遣っている自覚はあるが、そういう問題の前に汚ねぇ街で過ごすのは中々不愉快だった。
それに、
治安が悪い街ではそれなりの事件が起こる。
殺人、強盗、暴動、、、
数え始めたらキリがないが、1番気をつけるべきなのは人攫い。
捕まったらどこに売られるのか検討もつかない上、もし買われたあとならさらに希望は薄くなる。
…海賊の島というのが相応しいほど、島には下衆な男どもばかりだった。
希少なミンク族であるベポ、それから見目のいいカラは格好の標的だ。
歩く時わざわざ隣を歩いたのも、酒場でカラの肩を抱いたのも、全ては俺のものだと見せつけるため。
俺に挑む馬鹿はあの場には居なかったからな。
カラを船に残したのは人攫いから逃れさせるため、というのもあるが、、、
何より、俺が耐えられなかった。
明らかに気色の悪い顔で舐め回すようにカラを見ていた。
アイツらの脳内でカラがどんな姿を晒されていたのか、想像に難くない。
「チッ」
俺はどうもそれが許せない。
そんな環境下に置いておきたくない。
俺は全くページの進まない本を閉じ、大人しく布団に入った。