第7章 白波
「小夜、と言ったか。」
『えぇ。』
カラは刀を一振りすると空に翳す。
『…今日は少しだけよ。
この子を出すのも久々だし、主治医の先生からも激しい運動は控えるようにって言われてるしね。』
カラは悪戯っ子のように俺に笑いかけると俺から少し離れた。
海風がカラの髪を攫う。
『ふぅ…』
ひとつ息を吐き、風が止んだ。
ピシッ!
カラの持つ鋒が空を斬る。
と、地面に落ちたのは水飛沫。
波の水滴をカラが斬ったようだ。
ヒュッ、パシッ!ビシッ!!
それを皮切りに、その長い髪をたなびかせながら剣を振ってゆく。
細く白い手に握られる刀は決して小さくはない。
大きさはごく一般的な刀と同じ。
しかし、カラはその重みなど感じていないように自らの身体の一部であるかのように振りかざす。
シュッ!
動くたびに靡く服や髪の動きは全て計算されているかのようで、カラの剣を振るう姿はただひたすらに美しい。
動きの最中に窺えるしなやかな身体の動きの中に、少しだけぎこちなく動く上半身。
無意識だろうが、左半身を庇うように立ち回る姿。
ピンッ、
最後にひとつ、海の方から空に向けて刀を振り上げると、カラは静かに鞘に刀を収めた。
『はぁ……少し疲れちゃった。』
パシャッ
「!?」
ぐぐっと、背伸びをするカラの背中越しに見える海。
それはいつもの海ではなく、
カラの斬撃が通った道があるかのように、一筋だけ白く飛沫を上げた海だった。
と、すぐにその飛沫は海に落ち、いつもの青い海の姿に戻る。
海を斬るわけではなく、海の表面だけの水を弾く。
そんなことが可能なのか。
カラの剣の繊細さを見た俺はカラの底知れぬ本気を見てみたいと思った。