第7章 白波
ローはノートを閉じると私を真っ直ぐ見てそう言った。
「…この船で起きたことは全て俺の責任だ。
お前の病状、クルーの力量、全てを把握していながら防げなかった。
挙句、患者のお前に救われた。
ペンギンの件、礼を言う。」
ローはそう言って私に頭を下げた。
顔を上げたローの瞳には仲間を失うところだったという恐れが見える。
『(…私ね、昔一度おじさまの船で溺れかけたことがあるの。
そのときは苦しくて怖くて仕方なかった。
自然の中での自分の弱さに酷く衝撃を受けた。
だから、その日から懸命に泳ぐ練習をして、溺れた人がいたら相手が誰であっても助けたいと思ったの。
どんなに強い人でも、どんなに弱い人でも、自然の本気には勝てない。
それなら、手を取り合って支え合うべきだと思うから。)』
ローは黙って私の言葉を見る。
『(だから、私は自分がどんな状態でも飛び込むし、相手がペンギンじゃなくても探すわ。
…ローやペンギン、ベポは、みんな私に謝るけど、そんな必要は本当にないの。
私が勝手にやったこと。
偶々それがみんなだっただけ。
偶々私が治療中だっただけ。
寧ろ謝るのは私の方。
自分の体調をわかっていながら、勝手をして、心配かけてごめんなさい。
治療、ありがとう。)』
ローは驚いたような顔をして私を見つめる。
ちゃんと、伝わったかな。
「…例えお前がそう言おうとも、俺はお前に謝罪もするし、礼も言う。」
頑固だなぁ。
『(じゃあ、お礼だけ受け取るわ。)』
私はへらりと笑ってそう言った。