第7章 白波
【カラは、、、カラは今、どうしている。】
鷹の目が初めて自分から問いかけた。
「眠らせている。
現状、命に別状はないが、破れた組織の修復を助けるため、鎮静剤はじめとする薬を使って体温を下げ、生体活動を抑制している。」
俺は現状の処置を淡々と説明する。
事実だけを並べる。妙な予想や期待を織り込むことなく。
【…治るのか。】
核心をついてくる鷹の目の質問。
これにもただ、事実を述べる他ない。
「治ることには治る。
だが、長期治療やリハビリは避けられない。
完全に元の状態に戻るかはカラ次第だ。」
【…そうか、】
それ以降、鷹の目が口を開くことはない。
「すまなかった。俺の責任だ。」
謝る相手が違うことも、謝ったところでどうにもならないことも分かっていた。
分かっていたが、耐えられなかった。
【…いや、これは俺の及び知るところではないが、恐らくカラは貴様が止めていても飛び込んだだろう。
以前見たところ、荒れた海を人1人抱えて泳ぎ切ることのできるほどの人間はその船には居なかった。
貴様らがどれだけの信頼関係をカラと築いていたかは知らんが、アイツは海に落ちた人間を見捨てることは絶対にしない。】
「?何故だ。」
確かに、俺の船にそんなに泳ぎの得意なやつはいない。
だが、そこまで絶対的に言い切る鷹の目の理由が知りたかった。
【…カラ自身、一度海で溺れたことがあるからな。
それが随分と怖かったらしく、それから必死に泳ぐ練習をしていた。
…昔の自分のように溺れた人間を見たら、カラは必ず助ける。
ソイツを同じ恐怖から救うために。】
「そうか。」
俺はそれを聞いて何故か悔しくなった。
?何故だ。
俺が鷹の目の語るカラのことを知らなかったのが、なぜか妙に腹が立つ。
俺はその感情を押し殺し、再び受話器に向けて声を入れた。