第6章 白銀【2】
だが、そいつらのためとは言え、これほど優秀な医者が罪悪感を感じずに生きてこられたとは思わない。
この部屋を見るだけで、医者の誇りを捨てることなく、医療に真摯に向き合ってきたことがわかる。
王の医者狩りから逃れ、尚この国に留まり続けているのが何よりの証拠だ。
だからこそ、俺は確信していた。
俺があの病の生き残りだと知れば、ババァは必ず俺の要求を飲む、と。
…病を逆手に取り、強請るような行為。
医者が1番してはならないこと。
…だから、使いたくないカードだった、、、
俺は横目で顔を上気させ、苦しそうに息をするカラを見た。
ーパタン
「…」
「…」
ババァは隣の部屋に入っていってしまった。
俺はカラのベッドの横の椅子に腰掛け、額に張り付いていた髪を払った。
落ち着け。
俺は海賊だ。
揺さぶられるな。狼狽えるな。
欲しいものはどんな手を使っても奪う。
海賊としては何も間違っちゃいない。
俺はただ、カラを治し、鷹の目から情報を得るために、一瞬医者をやめただけ。
ただそれだけのことだ。
そうだ、俺は海賊なんだ。
そう言い聞かせながら、無意識に握り込んでいた拳を解き、もう一度カラの顔を眺めた。