第6章 白銀【2】
「…」
「…」
ババァはまた酒をガブ飲みしてから言葉を発さなくなった。
…チッ
あまり使いたくはないカードだったが、、、、、
「俺は、昔、拍鉛病だった。」
「!!??」
ーガシャン
ババァは手に持っていた酒瓶を落とし、それは音を立てて床に割れた。
視界の端にじわじわと広がる赤い酒のシミが見えるが、俺とババァは互いに目を逸らすことなくじっと見つめ合う。
「フレバンスで生まれ、地獄を見てきた。
拍鉛病は恩人に救われ、悪魔の実を手に入れて自力で治した。
…随分と苦労したよ。なんせまだガキだったからな。知識が劇的に足りなかった。
だが、、、今は違う。俺も医者としての経験を積んだ。能力だってある程度使いこなせるようになった。
今なら、カラに昔の俺よりも優れた医療を提供できる。
それでもまだ知識が足らない。
…アイツは、、、カラは、あの国の最後の患者なんだ。」
だから、頼む。教えてくれ。
俺がそう言うと、ババァは、唇を噛み、俺から背を向けた。
チラリと見えた表情は、悔いているようにもみえる。
…俺は、このババァを責めるつもりはない。
確かに、死んでいった沢山のフレバンス国民の中には、拍鉛が毒だと解明したこのババァを恨む奴もいるだろう。
何故もっと世間にその事実を伝えようとしなかったのか、と。
何故医者としてフレバンスを支援してくれなかったのか、と。
何故、助けてくれなかったのか、と。
…絶望の底まで叩き落とされたんだ。
全てを恨まずにはいられなかっただろう。
昔の俺もそうだった。
だが、今の俺は違う。
ただの有能な医者が、政府が起こした悲劇を止めようとすると一体どうなるのか、それがわからないほど無知ではない。
俺は海を渡り、世の中を見てきた。
…身をもって政府の汚さを思い知ったからこそ、分かる。
ババァが妙なマネをしていれば、間違いなく殺されていた。
大切な人諸共、な。
いや、もしかしたら、このババァ場合、有能さ故、生かされて一生研究所に閉じ込められていたかもしれない。
それを思うと、このババァを責めることなど、できるはずもなかった。
あの人が命を捨ててまで俺を守ってくれたように、このババァにもそれ程守りたい人がいたのだろうから。