第6章 白銀【2】
「なぁ。」
俺はカラの処置を終えると、ババァに声をかけた。
「なんだい。小僧。」
「…」
…医療に関して妥協をしたことは今まで一度も無い。
父の元でも、あの男の元でも、自分の船を持っても、奢ることなく、吸収できる知識は全て頭に叩き込んできたつもりだ。
だが、、、まだ足りない。
「この島を出るまでの期間、アンタの知識を学ばせてくれ。」
悔しいが、、、拍鉛の知識も、医者としての知識や経験も、このババァのほうが優れている。
このババァは拍鉛病を治す手段がなかっただけで、方法は確立していた。
もし、このババァがオペオペの実を食っていたら、それこそ万能薬のような奇跡を起こせる医者になっていただろう。
俺はじっとババァの目を真っ直ぐに見て言った。
「…バカいってんじゃないよ。若造が…
アタシの知識を学ぶのに3日だって?足りるわけが無い。そんな中途半端のは嫌いなんだ。」
「…」
「アタシが患者を診るときはね、死ぬか、治るかのどちらかだ。
知識を教えるのも同じさ。アタシの持つ医学の全てを叩き込むか、教えないか、だ。
今薬草を取りに行かせてる弟子はもう3年ここに居る。それでもまだまだ足らない。3日だって?笑わせんじゃないよ。
半端な医者は患者を殺す。覚えとくことだね。」
ババァは俺に背を向けて酒をガブ飲みする。
だが、ここで「はいそうですか。」と言うほど俺は素直な人間じゃない。
ここで引く訳にはいかない。
俺は海賊だ。欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる。
「Dの一族。」
「!」
「…何か心当たりがあるんだろう?
ただの珍しい名前なんてもんじゃない。れっきとしたルーツがある名だ。」
「…」
「俺にもその隠し名がある。」
「………"D"はまた、必ず嵐を呼ぶ。」
「!」
眉を潜め、サングラスを掛け直しながらぽつりとこぼれた呟き。
それはしっかりと俺の耳に届いた。
やはり、あの人の言った通りだ。
この世代の人間はDについて何か知ってる。