第6章 白銀【2】
「11:24からの1時間がピークだね。
肺炎となればアタシも診れるさ。」
サングラスを上げてニヤリと笑うババァ。
俺はひとつ舌打ちをすると点滴の中に混ぜる薬を用意する。
「待ちな。その抗生剤は止めるんだ。コッチのやつの方が良い。」
「…何を言ってやがる。その薬は強すぎる。今のカラには危険だ。」
まぁ、俺が使おうとしてる薬もそこそこ強いものだが、何せ時間がない。
この薬くらいなら許容範囲だろう。
俺の手元にある薬は以前城から盗んだ珍しい薬だ。
まだ使ったことはないが、強さも期待できる効力も丁度いいものだった。
「大丈夫さ。その小娘、体力は常人とは比べ物にならないだろう?
なんせ鷹の目仕込みの剣士だからね。
それに、、、患者は女だよ。わかってるのかい?」
「?」
…どういうことだ。
「…お前の使おうとしてるソレ、副作用が強く出る。
ホルモンのバランスが崩れちまうのさ。
長いこと使うと、子供が出来なくなるという症例も出たから世に出回ってない。
長期間の投与だけでなく、一回の使用でも髪が抜けるくらいなら起こってもおかしくないよ。
お前、その小娘から女である楽しみと、女の命を奪うつもりかい?」
「っ!」
そんなはずはない。
俺だって海賊だが、医者であることにプライドを持ってる。
専門は外科だとしても、薬の副作用や効力くらい全て頭に入ってる。
この薬にそんな副作用は確認されてない筈だ。
「あぁ。そうだ。
城の薬はね、世界の海に流通してる薬とはまた訳が違う。
国王がクズに変わってから、この国の医療研究の目的は【最高の医療を提供するための研究】から【国に利益をもたらすための研究】へと変わっていった。
その薬も、更なる効力を手にしようと躍起になった結果、ただ副作用が増大しただけの毒になっちまった。
海外から来たお前が知らなかったのも無理はないが、医者はそうも言ってられない。」
「…そうか。」
俺はババァが差し出した文献に目を通し、ババァの提案した薬をカラの点滴に混ぜた。
…危うくカラを壊してしまうところだった。
ババァの言う通り、知らなかった、では済まされないのだ。
俺は医者としての自分の未熟さを恥じ、カラに懺悔する様に目を伏せた。