第5章 白銀
「ただ、望みは薄いが、思い当たる方法がひとつだけある。」
「なんだ。」
鷹の目は食いつくように問う。
「オペオペの実と言う実がある。
それを医者が食べれば神のようなオペまでが可能だと聞く。」
「…つまり、その実を手に入れ、貴殿に渡せば可能性はある、と言うことか。」
「…医者だって神じゃない。確実に救えるとは言えない。」
「…可能性がゼロでないなら、俺はそれに掛ける。やっと、中毒であることを知る医者を見つけたんだ。」
鷹の目は強く言い切った。
「…お前がいくらそれに掛けようとするのは勝手だ。止めないよ。
…だがね、医者としてひとつだけ、言っておかなきゃならないことがある。」
「なんだ。」
…実際、この男にはそれだけの力がある。
口だけの馬鹿ではない。
だからこそ、言わなければならない。
「…恐らく、その娘はもう死にたがってるよ。」
「!何を、」
「絶対にないと言い切れるかい?今までの生活で思い当たることはないかい?」
「…」
「…長く医者やってんだ。救えなかった命の100や200、ざらにある。
色んな人間の死に様を見てきた。」
運ばれたときには手遅れだったこともあった。
オペをしてもダメだったことも、薬の副作用に耐えきれず自害したことも、
…不治の病に侵され、手の施しようが無かったことも
…毒だと分かっていても、バカ共の暴走を止められず、見殺しにするようなマネをしたことも、ね。
「人は皆いつか死ぬ。この時代、悲惨な最期も少なくない。
だが、こんな時代でもね、本当に幸せそうに逝く奴らだって居た。
そいつらの死に様は皆同じだった。」
確か、あの馬鹿の遺言は、『いい人生だった』と言ったな。
馬鹿とその弟子のトナカイの姿、他にも笑みを浮かべて散っていった奴らの最期を思い出す。
「皆ね、側で愛する者に思われ、見守られながら逝ったのさ。」
「…っ」
「…選ぶのはお前だ。
だが、その選択は誰のためだい?
自分の自己満足か?その娘の意を汲んでか?
…よく考えることだ。
少なくとも、アタシはそんな道を選べる者も愚かではないと思うよ。」
アタシはそう言って受話器を置いた。
それから2度と鷹の目からの連絡はなかった。