第5章 白銀
拍鉛病は決して忘れられるものではないが、当時の俺は幼すぎて、こんな知識も記憶力もなかった。
ただ漠然と拍鉛が毒で、政府に騙されたということしかわからない。
この体も、あの男の元で学ばされた最低限の医学知識と身につけたての悪魔の実の能力で自分の体を弄り回してやっと治した。
根本的には同じであるはずの病だが、ルーツの違うカラを治すには、やはり知識が必要不可欠だ。
そして、【拍鉛病の治療法を確立させる】
これはフレバンス出身の医者である俺の意地だ。
父や母をはじめとする、かつてのフレバンス中の医者の無念、そしてフレバンス国民の願い、
…そんな綺麗なことを掲げる気はないが、これはフレバンスの唯一の生き残りである俺が、彼らに酬いることのできる最低限だ。
…今の俺はもう、思うのも許されないかもしれないが、、、少なくとも、ガキの頃の俺はあの国が好きだった。
今の、海賊で、少なからず人を殺めた俺には眩しく、そんなことを考える資格すらないかもしれないが、、
カラの病を治すことで、彼らが、俺が生き残ったことに少しでも意味を見いだせないだろうか?
「キャプテン、こっち終わりましたよ。」
「…あぁ。俺ももう終わる。先にロープウェーに荷物積んどけ。」
「アイアイ」
…余計なことを考えるのはよそう。
どうも、カラと出会ってから不毛なことを考える時間が増えた。
拍鉛病を目にしたことによるのは分かっているし、仕方のないことだとも思う。
しかし、今はそんなことで足を止めるべきではない。
考えたところで彼らの思うことなんて分からないんだ。
まずは彼の本懐を遂げる。
当初の目的を見失うな。
あくまでカラはあの男の情報を鷹の目から得るための手段だ。
俺は本棚から抜き取った本や資料を纏め、書庫から出た。