第5章 白銀
小さいが数の多いソレ。
一気に取り除くとカラの身体に負担がかかりすぎる。
特に不味いのはやはり肺の拍鉛だ。
まずは何よりも先にコイツを取ることからだな。
コレさえ取ってしまえばしばらくはまだ大丈夫だろう。
だが…ここまでの大きさで自覚症状がないのも妙だ。
「カラ、まだ心肺機能に…」
異常はないのか。
そう、尋ねようとしてカラの顔を見た。
すると顔を真っ赤にして下を向くカラの姿。
「顔赤いぞ。大丈夫か。」
熱でもあるんじゃないか、と尋ねると、大丈夫だと言う。
本当にどうしたのか。
服を脱ぐように言った時も本当に顔から火が出るのではないか、という程真っ赤になっていた。
俺は医者だ。
女の裸なんざ見飽きるほど見た。
今更なんとも思わない。
だが…確かに、俺がもっとオペオペの実の力を意のままに操れたら、わざわざそんな思いさせずに診れたかも知れないと、そう思った。
その後、心肺機能についてもう一度問うと、カラははっきりない、と答えた。
隠している様子も見られない。
…確か部屋にフレバンスの患者のデータや俺自身のデータもあった筈だ。
俺はカラのカルテ代わりのノートを閉じ、さっさと部屋を出た。
ガチャ
…拍鉛病。
もう二度と俺の前に現れることのない筈だった病。
カラを見た時は本当に驚いた。
あの炎に包まれた街、父と母の体が冷たくなっていく感覚、妹の辛そうな顔、医者からバケモノ呼ばわりされた悲しさと悔しさ。
あの人が流してくれた暖かい涙、あの人のコートの中の温もり。
医者がバケモノだと言えば俺のために怒り、海兵ではないと優しい嘘を吐き、任務を外れ、愛をくれた日々。
拍鉛病になってからの全ての記憶が頭の中を巡った。
でも、目を閉じると浮かび上がるのはただひとつ。
【愛してるぜ!】
あの人の下手くそな笑顔。
あの人が居なければ今俺は生きていない。
…生きたいとも思わなかった。
拍鉛病という呪縛から解き放ってくれた彼。
その彼に報いるために、俺は昔彼が俺にしてくれたように、彼女を必ず拍鉛病という呪縛から解放する。
その思いを胸に、黄ばんで端が焦げ、赤黒い染みの付着した紙の束をめくった。