第5章 白銀
途端に恥ずかしくなって俺は男部屋に帰る。
鏡を見て腫れ上がった目に自分でも少し引いた。
こんなに泣いたのはいつぶりだ?
『……あの時の私は病で死ぬことを受け入れてた。
私自身がそれを望んでた。』
死を受け入れるって、死を望むって、、どんな気持ちだ?
俺は病気をしたことが生まれてこの方一度もない。
海賊やってるが、幸い今のところ命の危険を感じるような経験もしたことがない。
だからその気持ちが全く想像がつかなくて、ただただ疑問だった。
『多分あの時、私はおじさまがいないならいつ死んでも良かったって思ってたんだと思う。』
いつ死んでも良かった、って?
それを聞いて、考えるよりも先に言葉が出ていた。
「っ、今は、そんなこと思ってないよな!
いつ死んでも良い、とか、、考えてないよな!!」
嫌だ。死なないで欲しい。
まだ出会って少ししか経っていないにも関わらず、俺はカラを失いたくない。
その一心だった。
『えぇ。今はそんな風に考えてはいないわ。
この病気が治るだなんて、考えたこともなかった。
でも、ローから治せると聞いた時、私ね、嬉しかったの。
凄く、凄く嬉しかったの。』
落ち着いた声でそう言われた時、柄にもなく安堵し、力が抜けた。
嬉しかったと、そう語る彼女は本当に可愛らしくて、まるで初恋の相手を見つめる少女のようだった。
そして彼女は静かに目を閉じ、夢について語ってくれた。
楽しそうに、無邪気に、それでいて謙遜するように紡がれる言葉。
やっと生を掴んだ少女の発する言葉が、自分の中の何かを大きく揺さぶった。
涙が溢れたのもそのままに、俺は強く訴える。
「カラ!小さぐなんかねぇよ!世界を見たいって、それは十分大きな野望だ!!
それが一番自由な奴だ!海賊王以外成し遂げたことがない偉業だ!!
小さいわけあるか!」
彼女を生に繋ぎ止めるように。
2度と彼女がその手から何も諦めなくていいように。
「もう絶対いつ死んでもいいとか言うな"よ!
もう絶対命捨てたらダメだからな"!!
約束だ!!!」
だから約束しよう。
全ての柵から解放されるその時まで。君が本当の自由を手にするその時まで。
彼女が微笑んで小指を絡めた時、チラリと視界に入った、目尻の光は、きっと俺の気のせいではないだろう。