【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
「…オイ!陣平ちゃん!あそこ、見えるか?」
「ん?ハギ、どうした?」
萩原が指差す先には
高い建物の屋上で揺れる人影があった。
「…やべぇな、行くぞ!」
その建物に近づくと、どうやら夏休み中の学校のようだ。
お盆だからか、生徒はもちろん教員もいない。
屋上で1人の女の子が佇んでいる。
「おい、何で通り過ぎるんだ」
僕は後ろから萩原に声をかける。
「ここで俺たちの車が止まったら
あの子にバレちゃうでしょ?」
「それで自殺を諦めてくれたら
その方が良いじゃないか」
萩原は学校から少し離れた駐車場に車を停めた。
「ゼロ、お前分かってねぇな。
お前はあの子が “今日” 死ななければ良いと
思ってんのかよ!?」
松田が振り向きざまに吐き捨てる。
「えっ…」
「落ち着けよ、松田。
ゼロだってそんなこと思ってないよ。な?」
「あ、あぁ…」