【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第4章 序の口
ポケットに手を突っ込み、
「ここ、新一兄ちゃんの家だからね!」
と、俺に牽制するとボウヤは帰っていった。
玄関の鍵を閉め、チョーカー型変声機の電源を入れると
俺は沖矢昴に戻る。
無論、そよ香を起こすためだ。
リビングに入ると
レースカーテンを通して優しい月明かりが
そよ香の寝顔を照らす。
長いまつげが頬に影を落としていた。
「…そよ香さん、そよ香さん
ベッドに行きましょう」
ソファの前に膝をつき、少しかがんで
そよ香の頬を撫でる。
「ん…」
寝ているのを良いことに
よこしまな気持ちも芽生えるが
沖矢昴はそういう男ではない。
「そよ香さん」
肩を少し揺らすと、
ハッとした顔でそよ香が目を覚ました。
「だ…だれ…?」
みるみるうちに顔が青ざめ
瞳がうるんでいくのが分かる。
…まずい、これは…
「どうしました?僕ですよ…」
頭を撫でようと手を伸ばすと
逆に振り払われてしまった。