【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第4章 序の口
優しい笑顔の下で、悪魔の甘言を囁く者を
そよ香は嫌というほど見てきた。
今、目の前にいる沖矢昴という人間が
天使なのか悪魔なのか
そよ香は判断できないでいた。
ちょうど人肌にぬるまったミルクティーを
ごくごくと飲み干すと立ち上がる。
「…シャワーお借りします」
沖矢の顔を見ることもなく
バスルームへ向かった。
扉を開けると、白い大理石の床が目に入る。
その白さとは裏腹に、そよ香の心の闇は黒く染まる一方だ。
身体の傷と共に不愉快極まりない記憶が増え、
自分の罪業が深くなる、そんな気がした。
*
*
*
シャワーを終えて脱衣所に出ると
御影石の広い洗面台の上に
バスタオルと、綺麗に畳まれたそよ香の服、
火傷用の軟膏に新しい絆創膏が置いてあった。
(…気がつかなかった)
沖矢の優しさや細かな気遣いに
嬉しくもあり、苦しくもある。
(明日家に帰ろう)
身なりを整え、リビングに戻ると
沖矢から書き置きがあった。