【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第1章 点と点
安室は自信満々に話し始めた。
「毛利先生は今一人で事務所にいます。
それは間違いないでしょう。
しかし電話にも出ず、来客の対応もしないし、
鍵もかけてしまっている。
中から聞こえるのは
スポーツ観戦のような声のみ。
そして今日は風も強く、春とはいえとても冷えるのに
少しだけ空いた窓。
おそらくそこはいつも毛利先生が座っている
椅子の付近でしょう。
もしも依頼人が中にいるのであれば、
暖房をかけて窓は開ける必要はありませんからね。
窓を開ける理由は恐らく…タバコを吸うため。
それも1、2本じゃない。
イライラしていたり、何かに行き詰まっていたり、
リフレッシュしたいと思った時に
本数が増える傾向にあります。
今日、毛利先生がこの時間誰にも邪魔されたくない理由、
それは…」
「そ、それは…?」
そよ香は生唾をゴクリと飲み込む。
紅茶にミルクを入れることさえ忘れて
安室の話に聞き入ってしまった。
「競馬、ですね!」
そう言い切ると、
ニコッとさわやかな笑顔をそよ香に向ける。