【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第4章 序の口
庭に続く窓のレースカーテンを開けると
眩しさに一瞬目を細めたが、
青々とした草木が目に入る。
一番近くの花壇には
色とりどりのチューリップが咲いていた。
「…きれい」
今の自分に、花を愛でる余裕があることに驚いた。
早くこの家から出なければ。
沖矢を巻き込むことになりかねない。
『そよ香さんはまだしばらく
ここにいることになると思いますしね…』
ふいに、朝食の時に言っていた
沖矢の言葉が思い出される。
(ちゃんと聞かなきゃ)
ソファに座りなおし、
ブランケットにくるまっていると
ちょうど沖矢が戻ってきた。
「そのブランケット
お気に召しましたか?」
「え?…はい。ふわふわで気持ちよくて」
「ではそれはそよ香さん専用にしましょう。
おろしたてなのでまだそよ香さんしか
使ってないですし」
紅茶のポットの隣に置かれた砂時計の砂が
さらさらと下へ落ちていく。
運命に逆らわず、終わりが来るその時を
じっと待っているようだ。