【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第4章 序の口
バターの香りと、ほのかに感じる小麦の甘さ。
サクサク、ふわっとちょうどよい焼き加減は
悔しいが、自分で焼いたものより美味しかった。
「…ふふっ」
目の前にいる沖矢が笑い出す。
「何か?」
「いやぁ、貴女は表情が豊かで
見ていて飽きないなと思いまして…」
(…なんか、やな感じ)
優しいかと思ったら意地悪だったり
からかってきたり
そよ香は沖矢という人物がよく分からなかった。
「食べ終わったら薬を忘れずに。
食器はそのままで構いません」
一足先に食事を終えた沖矢は
自分の食器をさげにキッチンへと消える。
水の入ったグラスの横に
錠剤と粉薬が置いてあった。
(今日こそちゃんと聞くんだ)
そよ香は気合を入れて薬を飲みこんだ。
*
*
*
「そよ香さん、薬飲みましたか?」
沖矢がマグカップを片手にリビングへ戻る。
「おや」
ブランケットにくるまって
寝息を立てるそよ香の姿がそこにあった。
(ある程度静かにしていてもらわないと
こっちの仕事ができんからな…)
沖矢はそよ香を抱き上げ
ベットのあるゲストルームまで運ぶ。