【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第4章 序の口
「そよ香さんがトマトの選び方を
教えてくださったおかげで
失敗しなくなりました。
今度は目玉焼きの焼き加減を教えていただけませんか?」
「教えるほどのことはないと思いますけど…
いただきます」
トマトに塩を振り、フォークで刺す。
頬張ると爽やかな甘酸っぱさが
口に広がった。
「僕が焼くと黄身まで火が通ってしまって。
半熟に挑戦したいんですが…」
ナイフで目玉焼きを切ってみると
焼きすぎて黄身はパサパサ
白身も焦げていて
お世辞にもおいしいとは言えない。
「沖矢さんにはお世話になりっぱなしなので
それくらい全然かまいませんが…」
「それは良かった。
そよ香さんはまだしばらく
ここにいることになると思いますしね…」
「…どういう意味ですか?」
突然、二人の会話が途切れる。
そよ香は怪訝な表情で沖矢を凝視するが
口元はいつも通りの薄い笑みだ。
「…そのうち分かりますよ。
トースト、冷めないうちにどうぞ」
「……」
昨日から沖矢にははぐらかされてばかりだ。
そよ香はムスッとした顔で
トーストにかぶりつく。