【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第2章 嘘つき
「これは截拳道(ジークンドー)という武術だ。
君たちも覚えておくと良い」
「…おっと、そこまでにしとけよ」
鈍い銀色に光るペティナイフを
田中は後ろから男の首筋に当てる。
「ほぉ、良いものを持っているな。
だが、今のを見ていれば君に分が悪いのは
分かってもらえたと思ったんだが…」
ナイフの切っ先がわずかに震えたのを
男は見逃さなかった。
ナイフを握った田中の腕を掴み、
振り返って再び自分の首にナイフを押しつける。
細く閉じられた両眼を開き、
襟元に白いラインの入ったネイビーシャツの
第一ボタンを開けると、
黒いチョーカーが首に巻かれていた。
__ピッ
「ほら、どうした。切ってみろ」
男の口から発せられたのは
先ほどの少し高く、柔らかい声質とは違う
低く、耳に残る声だった。
「…!?」
田中が動くより先に
男はみぞおちに向かって拳を放つ。
「ぐぅ……ッ!!!」
田中はブロック塀に思いっきり背中を打ち付けると、
そのままずるずると地面に座り込んだ。