【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第2章 嘘つき
「…どけぇ!!」
少年は拳を突き出してくるが、
逆にその腕を掴まれ、足を蹴り上げられると
後方へ飛ばされる。
「女性の尊厳を蹂躙(じゅうりん)する行為、
とても許せませんね…」
弱々しい月明かりだが
眼鏡に反射して、男の瞳は見えない。
男はそよ香を抱き上げ、
空き地の端にそっと下ろすと
羽織っていたブラウンのジャケットを脱ぎ
体にかぶせた。
「すぐに終わります」
そよ香の頭を優しく撫でると、
少年たちの元へ行く。
「さぁ、先に地面を見るのはどちらかな?」
挑発とも取れるその言葉とともに、
男は利き手である左手を前に出し、
指先を下に向ける独特なファイティングポーズをとった。
うっすらと開かれたオリーブグリーンの瞳に
少年たちは一瞬怯むが
オアズケされた苛立ちをぶつけるかのように
2人同時に襲いかかる。
一呼吸する間に男は細長い手足を使って
少年たちの拳を避け、受け止める。
男は涼しい顔をして、息の乱れすらない。
「遅い」
そう言い放つと糸も簡単に少年たちを地面に叩きつけた。