【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第1章 点と点
プルルル…プルルル…
十数秒間のコールの後、
聞き覚えのある若い女性の声が聞こえてきた。
「お電話ありがとうございます。
毛利探偵事務所でございます。」
「あっ、蘭ちゃん?私…」
「ただいま留守にしております…」
スマホから聞こえる蘭の声は機械的で
家主の不在を伝えるものだった。
「え〜?この時間、だいたい先生いらっしゃるんだけどな」
メッセージを残して電話を切り、スマホを上着の左ポケットに入れる。
正面玄関の自動ドアが開くと
身震いするほどの冷えた風が顔に当たった。
「う〜〜、、まだちょっと寒いな…」
4月に入り、やっと暖かくなってきたかと思うと
急に冷え込む日もあり、寒暖差で風邪をひきそうだ。
毛利探偵事務所はそよ香の職場から電車で1駅先にある。
歩いて行っても15分ほどで着いてしまうため、
運動のつもりで今日も歩く。
ちょうど背中がポカポカと温まってきた頃
目的地が見えてきた。
「ん?電気ついてる」
毛利探偵事務所はビルの2階。
見上げると確かに明かりが付いていて、
1カ所だけ窓も細く開いている。