【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第2章 嘘つき
そよ香は1本の脇道の前で立ち止まる。
一昨日、安室に乗せてもらった車で通った道だ。
街灯のある向こう側の道までおよそ100メートル。
走れば1分ほどで抜けられそう。
「そよ香さんこの道は危険ですから
一人で通ることは絶対にしないでくださいね」
安室の声が頭をよぎった。
__チリン、チリン
後ろでベルが鳴り、少し避けると
自転車に乗った老人が脇道に入る。
行末を見守ると、何事もなく道を抜けて行った。
(今日は大丈夫そうだな…)
1秒でも早く家に帰って横になりたい…
そう思ったそよ香は
ビジネスバッグとコンビニの袋をしっかり握って走り出した。
ザァァ__…
後ろの方で風が木々を揺らし、葉のこすれる音がする。
月は薄い雲に覆われて、街灯のないこの道は
少々不気味だ。
(あの空き地を通り過ぎればマンションまでもうすぐ…)
日々の運動不足のせいか
息が上がって肩が上下する。
「すみません、何か落としましたよ」