【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第2章 嘘つき
買い物を終え、地上に出てくると
ちょうど日が沈む時間帯だった。
夕焼け雲が空を覆い、天気予報で週末は雨だ。
緑台駅からそよ香の自宅マンションまでは
徒歩10分ほど。
(いつもこのくらいの時間に帰ってこれれば
良いんだけどな…)
玄関を開けると自動で灯がつく。
細い廊下を進むとキッチンとリビングにつながり、
リビングから寝室につながっている。
よくある1LDKの部屋だ。
リビングの電気をつけると、
私用スマホの着信音が鳴った。
(…誰だろ?)
連絡手段はたいていLINEだから、
電話が来ること自体珍しい。
スマホの画面を見た途端、
そよ香の背中にゾクゾクと何かが走る。
嫌な予感がする。
この電話を取ってしまったら、
今まで私が無理やり止めてきた
人生の歯車がまた、動き出してしまう
そんな予感が……
“非通知”と表示された画面の
通話ボタンをタップする。
(…ただ電話に出るだけ。間違い電話かも)
そうであって欲しかった。
あの男の声を聞くまでは。