【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第2章 嘘つき
そよ香は持っていたトマトのお尻を男の方へ向ける。
「ほら、ここに白い放射線状の線がありますよね?
これがくっきり綺麗に見えるトマトは、
水分が少なく、糖度が上がっている証なんです」
「なるほど、それは知りませんでした」
男は一歩近づくと、
そよ香の持っているトマトを受け取る。
「僕の名前は沖矢昴と言います。
今日は貴女の選んでくれた
このトマトを頂くとしましょう。
ありがとうございます」
あぁ、またあの笑顔だ。
心がふっと暖かくなるような、
胸の奥がくすぐったい気持ちになる…
顔が熱くなるのに気が付かないフリをして
そよ香も話し出す。
「わ、私は春野そよ香です。
お役に立てたようで良かったです」
「そよ香さん…素敵な名前ですね。
またどこかでお会いできると良いのですが…
では、僕はこれで」
「え?あ…はい、また…」
(…また?)
つい口から出てしまった言葉ではあるが、
彼とはまたどこかで、会える気がした。