【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第2章 嘘つき
終業時刻を迎え、社員たちは帰り支度を始める。
スマホの電池を一応確認してみるが、
今日はそんなに使ってないからか
まだ60%程度残っている。
特に問題なさそうだ。
「お疲れ様でした」
ポアロのバイトがない日に
定時で上がれるのは久しぶりだった。
職場の最寄駅、杯戸駅から東都線に乗り、
2つ先の緑台駅で降りる。
今日は自炊でもしようと
そよ香は駅地下のスーパーに寄った。
(ん〜何にしようかな)
買い物カゴを持ち、
野菜コーナーをぶらぶらしていると
見覚えのある後ろ姿が目に入った。
ブラウンのスーツに、少しクセのある髪型…
(この前のコンビニの人…?)
少しだけ距離を縮めて、
気づかれないように顔を確認する。
(やっぱり!あの人だ!)
男は顎に手を当てて、
バラ売りのトマトを吟味していた。
「こ…こんばんは…」
恐る恐るそよ香は声をかける。
急に話しかけられて驚いたのか
男はそよ香の顔をじっと見つめた。