【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
このまま押し倒してしまいたい。
そんな衝動に駆られるが、
今はただそよ香の温もりをそばで感じることができれば
それでいい。
指の腹でそよ香の涙を拭うと、
細い顎を上に向かせるようにとる。
沖矢の方から顔を近づけていくと
そよ香は自然とまぶたを閉じた。
やわらかい、あたたかい、ここちよい…
一つ一つの感覚を確かめ合うように
2人は唇を重ねた。
お互いの顔が離れると、
そよ香は何かを言いたげに少しだけ口が動く。
それを遮るようにして、沖矢は人差し指をそよ香の唇に押し当てた。
「Shhh……今はまだ “ その時 ” ではありません」
ふぅ、と息を吐くと沖矢は体勢を変え
ソファの肘掛けに背中を預けた。
「おいで」
そよ香は伸びた沖矢の腕に自分の手を重ねる。
考える前に身体が動き、この時初めて
自分も沖矢のそばに居たいのだと気がついた。
「素直で可愛いですね…」
狭いソファの上で沖矢の胸にもたれかかる。
聞こえてくる心臓の音は、ほんの少しだけ速いような気がした。