【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
まるで幼な子を寝かしつけるかのように
沖矢の大きな手がそよ香の背中を優しくさする。
眠気に誘われ、まぶたが重くなってきた時、
沖矢が思い出したように呟いた。
「そよ香さん、今日はありがとうございました。
朝食、美味しかったですよ」
「…いえ、いつも沖矢さんには色々してもらってるので…」
「あれから自室で二度寝をしたら、昼過ぎまでぐっすりでした。
論文もひと段落したので、
今日はそよ香さんとゆっくり過ごそうと
思っていたのですが…
まさか、彼に先を越されるとは思いませんでした」
そよ香を抱く沖矢の腕に力が入ると
頭にキスをされた。
「まぁ、良いでしょう。
今はこうやってあなたを独り占めしているんですから…」
自分に言い聞かせるようにしてそう言うと、
沖矢はそよ香をもう一度抱きしめ直す。
洋服越しではあるが、沖矢の厚い胸板に抱かれ
自分の心臓の鼓動が
いつもよりはっきり聞こえてくるのが分かった。
初めて沖矢に触れられた時から、何故か嫌な感じはしなかった。
抱かれる腕、からまる指先、優しく触れるだけの唇。
どれも自然に受け入れてしまう。
今だってそうだ。
友達でもない、恋人でもない、“どんな関係でもない”
沖矢は確かにそう言ったはずなのに、
あからさまな独占欲と、ジェラシーを見せつけてくる彼は、
そよ香の心を少しずつさらっていった。