【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
持っていたナイトウェアはどれも首元が開いているもので
安室につけられたキスマークを隠すことはできなかった。
何故か沖矢に見られたくなくて、そよ香は少しだけ体を斜めに向ける。
「… そよ香さん、抱きしめても良いですか?」
思いがけない言葉に驚いて沖矢の顔を見ると
いつも落ち着き払った大人の余裕を感じさせる彼はいない。
切なさが滲む表情にそよ香の心臓が震え、
口からついて出た言葉は、沖矢を受け入れるものだった。
手を引かれて沖矢の腕の中におさまると、妙な安堵感が生まれる。
そのまま肩を抱かれ、頭を撫でられると一筋、二筋と涙が頬をつたった。
息が上手くできなくなって、不規則に胸が上下する。
沖矢はそれに気が付かないフリをして
そのままそよ香の頭を撫で、時折指に髪を絡めた。
指の間をしなやかに通り抜ける髪から、シャンプーの甘い香りが
ふわっと漂ってくる。
安室につけられたであろう首筋の痕と、
自分ではない男が彼女に口付けたあの光景に
胸の奥が焼けつくようにヒリヒリと熱くなるのを沖矢は感じた。