【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
運転をしている間、沖矢はそよ香の左手を握ったまま
離そうとはしない。
赤信号になるたびに手の甲にキスをして
隣にそよ香がいることを確かめているようだった。
何故あの家にいたのか、安室と何をしていたのか
沖矢は一切聞いては来なかったが、
もう既に知っているような気もして
そよ香は自分から話すことをやめた。
工藤邸に戻り、沖矢の淹れてくれたホットココアを飲んでいると
湯張りの終了を告げるメロディが流れる。
「そよ香さん、お先にどうぞ。
あがったらまたリビングに来てくれますか?」
「…はい」
そのまま自室に戻ろうとしていたことを
見透かしていたかのように沖矢は言った。
*
*
*
リビングへ戻ると、沖矢がソファーに座り
隣をポンポンと叩く。
「こちらへ」
と言って、そよ香を促した。
安室とのことを何か聞かれるのだろうか。
聞かれたらなんて答えよう…
居心地の悪さを表すかのように
そよ香は沖矢と少し距離を開けてソファに腰掛けた。