【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
「おっと…ここはアメリカではありませんよ。
沖矢昴さん?」
安室の唇が離れると、
沖矢は右手を伸ばしそよ香の腕を掴んで
自分の胸元に抱く。
「今日は帰してあげますよ。
彼女には僕の首輪がついているんでね…」
抑え込めない怒りを前に、そよ香を抱きしめる腕に
力がこもった。
「そよ香は…君には渡さない…」
「…フッ、本性がでてますよ?
自らその腕を離すようなことにならないと良いですね…」
安室はドアを閉め、ガチャンと鍵をかける。
「…そよ香さん、帰りが遅いので心配しましたよ。
家に着いたらお風呂を温めましょう」
沖矢はそよ香を咎めることも、責めることもせず
肩を抱いたままマンションの廊下を歩き始めた。
「…あれ、この車」
「今僕の車は修理に出していて…兄に借りたんですよ」
「そうなんですか…」
「左ハンドルは運転しづらいですねぇ」
うっかりマスタングで来てしまった自分を悔やんだ。
細かい嘘をつくと後々面倒なことになるからだ。