【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
*
*
*
「そよ香、そろそろ服を整えたほうが良い…」
ふわり、と頭を撫でられる感覚で目が覚めた。
どうやら泣き疲れて寝てしまっていたようだ。
まぶたが重く、少しだけ熱を持っている。
「ほら、これで冷やすと良い」
「…優しくしないで。今はどっちなの?」
ハンカチに包まれた保冷剤を受け取ることはせず、
そよ香は強めに言う。
「今は…どちらでもない。
そよ香、本当に僕のこと覚えていないのか…」
「…どういう意味?」
ベッドから気だるい身体を起こすと、
男の腕が伸びてくる。
「……!」
また何かされるのでは、と身体を硬直させて身構えるが
程よく筋肉のついた逞しい腕で
優しく抱きしめられただけだった。
頬をすり寄せ、二人の静かな呼吸が重なる距離に
そよ香は戸惑う。
安室とも、バーボンとも違うその雰囲気の男は
耳元で何かを囁いた。
「……」
「……君を迎えにアイツがもうすぐ来ます」
身なりを整え、ハンガーにかかっていたジャケットを羽織ると
ちょうどインターフォンのチャイムが鳴った。