【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
青信号に変わると、安室は一気にトップギアで加速する。
慌てた様子のFBIもお構いなしにアクセルを踏んできた。
(僕の日本で、君が僕に敵うわけないだろう)
助手席にそよ香を乗せている手前、
手荒な運転はできるだけしたくない。
ちょうど帰宅ラッシュの時間帯ということもあり
一般市民を巻き込むようなカーチェイスは言語道断。
安室は右左折を器用に繰り返していくと
人通りの少ない細い道で停まった。
(巻いたようだな…)
後部座席から今度はそよ香のビジネスバッグを持つ。
中からスマートフォンを2台取り出すと
慣れた手つきでアプリを確認した。
(盗聴と追跡アプリ…
こんなものただの大学院生が仕掛けるはずないだろう…)
アプリを削除し、電源を落とすとバッグに戻した。
*
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地下駐車場に車を停めると、
安室はそよ香を抱き上げて部屋まで運ぶ。
どうせ自宅はFBIが張り込んでいるだろうし、
仕事の合間に仮眠を取るためだけに借りていた
いわゆるセカンドハウスへ来ていた。
リビングには2人掛けのソファとテーブル、
隣の寝室には折り畳みのできる簡易ベッドしかない。