【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
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「お先に失礼します」
定時のチャイムと共に職場を出ると
そよ香はスーパーへと向かった。
今日は朝から沖矢に振り回されっぱなしだ。
いや、思い返してみれば今日限ったことではない。
出会った時から沖矢の良いようにされているのではと
そよ香は思った。
恋人でもないのにあんなに優しいキスをするのはずるい。
朝の出来事を思い出しては顔が熱くなる、
今日で何度目だろう。
ぶんぶんと頭を左右に振り、今日の夕ご飯のメニューを
考えることだけに集中した。
(元気が出るようなメニューが良いよね!
スタミナ系か…それともサッパリ系か…)
考え事をしながら、歩いていると
路肩に停められている白いスポーツカーの中から
声をかけられた。
「そよ香さん、お帰りですか?」
「…あ、安室さん!?お久しぶりです!
どうしたんですか、こんなところで」
助手席の窓を全開にし、運転席から身を乗り出した安室と目があった。
「車を停めて電話をしていたら、
そよ香さんが歩いてくるのがミラー越しに見えたので…
何かあったんですか?顔が赤くなったり、あたふたしていたり
さっきは眉間にシワが寄っていましたよ」