【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
「…沖矢さん?」
日光で本が焼けないようにするためか、
ここはいつも分厚いカーテンがかかっている。
テーブルの上には本や書類が積まれていて、
何かを調べていたような痕跡があった。
「遺伝子、工学…」
薄暗い書斎の中を見渡してみると
2人掛けのソファから長い脚がはみ出しているのが見える。
近づいてみると沖矢がタオルケットを頭までかぶり
横になっていた。
「沖矢さん、こんなところで寝てたら身体に悪いですよ」
トントン、と軽く肩を叩くが
胸のあたりが静かに上下を繰り返すだけだ。
もしかして体調でも悪いのかと心配になったそよ香は
顔にかかったタオルケットを少し持ち上げる。
少しだけ癖のある、柔らかいココアブラウンの髪。
前髪をよけて、手のひらをあてた。
(…?)
確かに沖矢の肌に触れているはずなのに、
自分のおでこと感触が違うことに気が付いた。
体温は熱くはないのだが、指先から伝わる温度に
不自然さを感じる。
(首のほうが分かるかな…)