【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第9章 渡さない*
朝6時30分。
スマホのアラームが鳴ると
そよ香は珍しく1回で起きた。
昨晩考え事をしてしまって眠りが浅かったようだ。
良く寝たとは言えないが、二度寝ができるほどの睡魔も
残ってはいない。
変に頭が冴えてしまって、今日は沖矢の分の朝食も作ろうと
キッチンへ向かった。
「…あれ?」
そよ香が起きてキッチンへ行くと、
いつもカウンターテーブルでコーヒーを飲みながら
新聞を読む沖矢がいるのだが、今日はいない。
いつもと違う朝の光景に戸惑う。
(作って置いておけばいいか…)
チーズの入ったオムレツに、付け合わせはサラダにウィンナー
厚めのトーストを焼いていると香ばしいにおいが漂ってきた。
今日はリンゴジャムにしようと
冷蔵庫からバターと一緒に取り出す。
朝食を作り終わっても、甘いカフェオレを淹れて食べる準備をしていても、
フォークを片手にトーストをかじっても、
沖矢は姿を現さなかった。
こんなに味気ない、ただ腹を満たすためだけの朝食は
なんだか寂しい。
沖矢のぶんの朝食にラップをかけ、
化粧をするためにパウダールームへ向かう途中に
書斎の扉が細く開いているのに気が付いた。